秋になると、空を渡っていくタカの姿を各地で見られるようになります。
普段は一羽で飛んでいる印象が強いタカですが、渡りの時期には何羽ものタカが同じ方向へ移動し、条件がそろえば「タカ柱」と呼ばれる光景が見られることもあります。
私自身、長野県の白樺峠と愛知県の伊良湖岬の両方でタカの渡りを観察したことがあります。
実際に何度か見て感じるのは、とにかく日による差が大きいことです。
次々とタカが現れる日もあれば、「今日は本当に飛ぶのかな」と思うくらい静かな日もあります。
天気や風、その日の渡りの状況、そして最後は運も大きい。
そこも含めて、タカの渡りの面白さだと思います。
タカの渡りとは?

タカの仲間には、一年を通して同じ地域で暮らすものもいれば、季節によって繁殖地と越冬地の間を大きく移動するものもいます。
日本で秋の渡りを観察しやすい代表的な種類が、サシバやハチクマです。
こうしたタカが秋になると繁殖地を離れ、越冬地へ向かって移動していきます。
長い距離を飛ぶときには、上昇気流を利用することがあります。
上昇気流に乗って高度を上げ、そこから翼を広げて滑るように進む。
この動きを繰り返しながら渡っていく姿は、普段見るタカとはまた違った面白さがあります。
サシバとハチクマはいずれも上昇気流を利用して渡りますが、渡りのルートは同じではありません。
衛星追跡では、ハチクマが秋に中国大陸を南下し、マレー半島を経由してインドネシアやフィリピン方面へ向かうことなども分かっています。
タカの渡りはいつ見られる?

秋のタカの渡りを見るなら、9月中旬以降から10月ごろがひとつの目安になります。
ただし、これはすべてのタカが同じ時期に渡るという意味ではありません。
種類だけでなく、地域や渡りのルートによって通過する時期は変わります。
「タカの渡りは○月○日がピーク」と全国一律に考えず、行きたい観察地の記録を確認するのが確実です。
サシバは9月中旬から10月中旬ごろ
秋のタカの渡りを代表する鳥のひとつがサシバです。
日本では主に夏鳥として繁殖し、秋になると南へ向かいます。
日本自然保護協会では、成鳥とその年に生まれた幼鳥が9月中旬から10月中旬にかけて群れをつくって南へ渡るとしています。
白樺峠や伊良湖岬でも、秋の渡りでよく観察される種類です。
ハチクマの時期は場所によって違う
ハチクマも日本で繁殖し、秋になると越冬地へ向かうタカです。
ただし、全国で一律に「この期間」と決めてしまうより、観察地ごとに時期を見る方が分かりやすいでしょう。
例えば長野県の白樺峠では、秋の渡りが始まる9月中旬ごろからサシバやハチクマが見られるようになります。
一方、長崎県の福江島にある大瀬山周辺では、9月中旬から10月上旬ごろがハチクマの渡りで知られています。
白樺峠では10月になるとノスリやツミが増える
サシバやハチクマの時期を過ぎても、すぐにタカの渡りが終わるわけではありません。
白樺峠では、9月中旬ごろからサシバやハチクマが渡り始め、10月初めごろからノスリやツミが増えてきます。
これは白樺峠で見られる傾向なので、全国すべての観察地で同じ時期になるとは限りません。
見たい種類が決まっているなら、その場所の過去の記録を確認してから出かけるのがおすすめです。
春にもタカは渡る
タカの渡りというと秋が有名ですが、春にも渡りがあります。
秋に南へ向かったサシバやハチクマは、春になると再び繁殖地へ向かいます。
サシバの衛星追跡では、春と秋におおむね似たルートを利用しながら移動することも確認されています。
ただ、初めてタカの渡りを見に行くなら、観察地の情報も多い秋から狙うと分かりやすいでしょう。
タカ柱とは?

タカの渡りを見に行くなら、一度は見てみたいのが「タカ柱」です。
渡りをするタカは、上昇気流を利用して高度を上げることがあります。
上昇気流をつかまえたタカが旋回しながら上昇し、そこへほかのタカも集まってくると、何羽ものタカが同じ場所でぐるぐると回る状態になります。
遠くから見ると、タカが柱のように連なって見える。
これがタカ柱です。
十分に高度を上げたタカは、そこから翼を広げて滑るように先へ進みます。
白樺峠では、条件がそろえば9月中旬から下旬ごろにサシバやハチクマのタカ柱が観察されることがあります。
ただし、渡りの時期に行けば毎回見られるものではありません。
その日の天気や風、渡ってくるタカの数によって大きく変わります。
タカの渡りで見られる主な種類

渡りの観察地では、さまざまな猛禽類が空を通過します。
最初から全部を見分けるのは難しいので、まずは代表的な種類を覚えておくと楽しみやすくなります。
サシバ
秋のタカの渡りを代表する種類です。
渡りの時期になるとまとまった数で移動することがあり、白樺峠や伊良湖岬でもよく観察されます。
初めてタカの渡りを見るなら、まず覚えておきたい種類です。
ハチクマ
ハチクマも秋の渡りではよく知られたタカです。
名前の通り、ハチ類の幼虫やさなぎなどを食べることで知られています。
体色の個体差が大きく、同じ種類でも見た目の印象がかなり違うことがあります。
白樺峠ではサシバと並んで秋の渡りを代表する種類です。
ノスリ
幅の広い翼を持ち、上空をゆったりと旋回する姿を見かけることがあるタカです。
一年を通して見られる地域もありますが、秋には移動する個体もいます。
白樺峠では10月初めごろから数が増えてきます。
ツミ
ツミは小型のタカです。
サシバやハチクマより小さいため、遠くを飛んでいると肉眼では小さな点にしか見えないこともあります。
白樺峠ではノスリと同じく、10月初めごろから数が増えてきます。
タカの渡りで有名な場所
タカの渡りは日本各地で見られますが、どこでも同じように観察できるわけではありません。
地形や渡りのルートによってタカが集まりやすい場所があり、全国には昔から知られている観察地があります。
白樺峠|長野県

長野県松本市にある白樺峠は、日本を代表するタカの渡り観察地のひとつです。
環境省の資料でも、全国的に有名な観察地として紹介されています。
白樺峠ではサシバ、ハチクマ、ノスリ、ツミなどが多く記録され、秋になると多くの人が「たか見の広場」から空を見上げます。
渡りが始まるのは9月中旬ごろ。
まずサシバやハチクマが目立ち、10月初めごろになるとノスリやツミが増えてきます。
私自身、白樺峠でタカの渡りを観察したことがあります。
よく飛ぶ日に当たると、広い空のあちこちにタカが現れます。
一方で、しばらく空を見続けてもなかなか来ないこともあります。
白樺峠ではシーズン中に種類ごとの通過数が継続して記録されているので、遠征するなら直近の記録を確認しておくと参考になります。
伊良湖岬|愛知県

愛知県の渥美半島先端にある伊良湖岬も、秋のタカの渡りで有名です。
渥美半島観光ビューローでは、9月中旬から10月中旬にかけてサシバやハチクマが見られると案内しています。
11月中旬ごろまではツミなどの小型のタカも観察できます。
私も伊良湖岬で実際にタカの渡りを観察したことがあります。
白樺峠が山の中で空を見上げる場所なのに対して、伊良湖岬では海を前にして鳥を待ちます。
同じタカの渡りでも、景色や雰囲気はかなり違います。
秋にはタカだけでなく、ヒヨドリなどほかの渡り鳥が移動する姿を見ることもできます。
五島列島|長崎県
ハチクマの渡りで知られているのが、長崎県の五島列島です。
福江島の大瀬山周辺では、9月中旬から10月上旬ごろになると、大陸方面へ渡るハチクマを見るために多くの野鳥観察者が訪れます。
白樺峠や伊良湖岬とはまた違った、海を越えていく渡りを感じられる場所です。
タカの渡りは天気でかなり変わる

タカの渡りを見に行くなら、時期と同じくらい気にしたいのが天気です。
ここは私自身、実際に観察していてかなり感じます。
白樺峠と伊良湖岬の両方で見ていますが、当たり外れが本当にはっきりしています。
来る日は次々と飛んできます。
逆に来ない日は、とことん来ません。
有名な観察地へ見頃の時期に行ったからといって、必ずたくさんのタカが見られるわけではありません。
その日の天気や風だけでなく、前日までの天候や渡りの進み具合によっても状況は変わります。
例えば伊良湖岬では、現地の観光案内で「低気圧が去った2〜3日後の穏やかな晴天の日」が観察の狙い目として紹介されています。
ただし、これは伊良湖岬での目安です。
同じような天気なら、どこの観察地でも必ず多く飛ぶという意味ではありません。
実際に何度か見ていると、最後は運もあるなと感じます。
遠征するなら、直近の通過記録と天気の両方を確認してから出かけるのがおすすめです。
タカの渡りは何時ごろ見られる?
時間帯も観察場所によって違います。
白樺峠では、10時から14時ごろに観察できることが多いと案内されています。
一方、伊良湖岬では早朝から昼にかけてがおすすめとされています。
この違いを見ても、「タカの渡りは○時が一番」と全国共通で決めることはできません。
その日の天気や風によっても変わるので、できれば時間に余裕を持って観察した方がいいでしょう。
初めてタカの渡りを見るときの探し方
実際に観察場所へ行くと、最初は「みんなどこを見ているんだ?」となるかもしれません。
タカはかなり遠く、高い場所を飛ぶことがあります。
肉眼では小さな黒い点にしか見えないことも珍しくありません。
最初から双眼鏡だけで探さない
広い空からタカを探すときは、まず肉眼で探す方が見つけやすいです。
何か飛んでいるものを見つけたら、その位置から目を離さずに双眼鏡を上げます。
最初から双眼鏡をのぞいたまま空を探し回ると視野が狭くなり、かえって見つけづらくなります。
一羽見つけたら周りも見る
タカを一羽見つけたら、その鳥だけではなく周囲の空にも注目してみてください。
同じ上昇気流を利用するタカが、近くにいることがあります。
最初は数羽だったものが徐々に増え、タカ柱になることもあります。
小さな黒い点も確認する
遠くを渡るタカは、本当に点のようにしか見えないことがあります。
「鳥かな?」と思ったものがあれば、一度双眼鏡で確認してみるといいでしょう。
何羽もの黒い点が同じ場所で旋回していたら、タカが上昇気流を利用しているかもしれません。
周りの観察者もヒントになる
白樺峠や伊良湖岬のような有名な観察場所には、長年タカの渡りを見ている人もいます。
周囲の人が急に同じ方向へ双眼鏡を向けたら、その先にタカが出ているかもしれません。
慣れている人は驚くほど早く見つけます。
ただし、カウント調査をしている人やほかの観察者の邪魔にならないよう、マナーを守って楽しみましょう。
直近の渡り記録を確認する
遠征するなら、ぜひ確認しておきたいのが直近の通過記録です。
タカの渡りは、その年によって進み方が違います。
白樺峠ではシーズン中、種類ごとの通過数を調べる調査が続けられています。
昨日たくさん飛んだから今日も同じとは限りませんが、「今どの種類が動いているのか」を知る手がかりになります。
タカの渡りを見るなら双眼鏡は持っていきたい
タカの渡りは肉眼でも見ることができます。
ただ、実際にはかなり遠くを飛んでいることがあるため、双眼鏡があるかないかで楽しみやすさは大きく変わります。
肉眼では黒い点だった鳥も、双眼鏡を使えば翼や尾の形が見えてくることがあります。
種類を見分けたいなら、なおさら持っていきたい道具です。
ほかには、
- 帽子
- 飲み物
- 雨具
- 防寒着
- カメラ
などがあると便利です。
特に山の観察地では、秋でも思った以上に冷えることがあります。
タカがなかなか来ず長時間待つこともあるので、現地の天気や気温を確認して服装を決めておきましょう。
タカの渡りは「行けば必ず見られる」ものではない

タカの渡りを初めて見に行くなら、ここは覚えておいてほしいところです。
有名な観察地へ、見頃とされる時期に行ったとしても、大当たりになるとは限りません。
私は白樺峠と伊良湖岬の両方で観察していますが、やはり日による差は大きいと感じます。
来る日は本当にすごい。
でも、来ない日は驚くほど来ません。
だからこそ、直近の観察記録や天気を確認してから出かけることが大切です。
それでも最後は運。
何もない空をしばらく眺めていたあと、突然一羽が現れ、その周りに次々とタカが集まってくることもあります。
そんな瞬間があるから、また見に行きたくなります。
秋になったらタカの渡りを見に行こう
秋のタカの渡りは、9月中旬以降から10月ごろにかけて各地で楽しめます。
ただし、種類や場所によって時期は違います。
サシバを狙うのか、ハチクマを見たいのか、白樺峠へ行くのか、伊良湖岬へ行くのか。
行き先が決まったら、その場所の直近の渡り記録を確認してみてください。
そして、天気が良くても必ず飛ぶとは限りません。
来る日はすごい。
来ない日は本当に来ない。
そんな予想できないところも、タカの渡りの魅力です。
運よく何羽ものタカが空へ上がっていくタカ柱に出会えたら、きっと忘れられない観察になると思います。

